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まだ知られざる「天然能登寒ぶり」を徹底解説!

2025.12.01
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今年も12月1日に天然能登寒ぶりの最高級ブランド「煌」の認定開始にあわせて、最高価格を決める「鰤-1グランプリ」が開催されます。天然能登寒ぶりの認知度向上に向けた動きと、「天然能登寒ぶり」について、どこよりも深堀りして紹介したいと思います。

-きっかけ

「天然能登寒ぶり」は、地元水産物の知名度向上を目的とした取組の先駆けとして、他県産寒ぶりとの差別化を図るため、平成18年に県下統一の呼び名として県漁協で決定したものです。冬の時期、中でも11月から翌年2月にかけて定置網で漁獲される7kgを超えるもので、丸みを帯びて脂のりが良いものを「天然能登寒ぶり」と呼びブランド化が進められています。
 平成18年から、20年弱経った今、認知度向上に向けた動きが加速しています。
そのきっかけのひとつとなったのは、加能ガニ(県産ズワイガニのオス)の最高級ブランド「輝」の存在でした。加能ガニを獲るのは底びき網漁業者、天然能登寒ぶりを獲るのは定置網漁業者で、主体が異なります。底びき網漁業者が先駆けて動いたことで、それに続く形で県内の定置網の漁業者団体である「石川県定置網漁業協会」が、石川県の冬を代表する2大巨頭の認知度向上に向けて本格的に動き出しました。

 全国的に「石川県(能登)では冬にブリを食べる」というイメージはあっても能登寒ぶりの知名度は低く、お隣富山県の「氷見寒ぶり」との差は圧倒的。県内でもその知名度は低く、スーパーや飲食店でも養殖ブリや他県産のブリが並び、県民も寒ブリは好きだが、「天然能登寒ぶり」を選ぶのではなく、店頭に並んでいる寒ブリを食べる状況でした。
 やや加能ガニとは異なるのが、ズワイガニといえば贈答品やちょっと贅沢な時に食べる特別な存在で、県産が選ばれる機会が比較的多いのですが、ブリは養殖もあり、比較的周年出回っていることで、県産へのこだわりが不足していました。

2年前から県内大手スーパーでも「天然能登寒ぶり」に力をいれてもらっています。

-知名度向上に向けて(最高級ブランド「煌」、金縁、白縁とは)

 知名度向上を図るべく広告塔としてまず打ち上げたのが、最高級ブランド「煌(きらめき)」です。もしかしたらこの名前は初のデビュー年に1本400万円という寒ブリ史上最高値が話題となり、ニュースなどで聞いたことがある方もいるかもしれません。

令和4年12月1日から認定が開始され、 「天然能登寒ぶり」のうち以下の条件をすべて満たすものだけを市場の限られた目利き人により「煌」に認定します。

<認定基準>
・石川県内の定置網で獲られる天然能登寒ぶり
・重量14kg以上  
・12月から翌年1月までの間に限定
・傷がなく胴回りが十分あること
・鮮度の徹底(氷締めや活締めを施す等)
・資源管理への積極的な取り組み
(地区ごとに年間2~3ヶ月の網揚げ休漁を行うほか、小型魚が入らないよう網の目を大きくするなど、将来寒ブリとなる資源を守る自主的な資源管理を実施しているもの)


県内の定置網漁業者による投票で名称を決定し、ロゴ、タグについても漁業者が話し合いを重ね、天然能登寒ぶり「煌」にかける思いを込めたものを作り上げました。


【名称】
意味・⾳ともに「輝」との親和性が⾼く、⾼級感、⿂の美しさも想起。また能登の祭りの象徴でもある「火」を取り入れているということから「煌」に決定。

【ロゴ】
寒ぶりの季節の象徴「ぶりおこし」と呼ばれる冬の雷のイメージ、ブリの回遊するという特徴、能登内浦の穏やかな波、祭りの象徴の火の要素をひとつのロゴとしてまとめています。また、北から南下してやってくる、身の引き締まっていること、活きのいいブリが冬の訪れの雷とともに定置網に入ってくるような流れも表現しています。

【証明書プレート】
目利き人による厳しい認定をクリアし「煌」と認定されたブリには、ロゴと定置
網名、水揚げ日を記載した能登ヒバ(アテの木)製の証明書プレート(直径20cm)がつけられます。アテの木は石川県の県木でもあり、「いしかわの木」を使うことで 県統一ブランド、能登らしさや、森の豊富な養分による豊かな海の恵みによる一体感を木を使うことで醸し出しています。

この年、トップブランドとあわせてデビューしたのが、天然能登寒ぶりのハイクラス、通称「金縁」(キンブチ)です。10kgを超え、丸みを帯びた文句無しの天然能登寒ぶりで、金の箔押しで縁どられた漁業者名(網組名)と重量が記載されているラベルがつけられます。近年、市場関係者の中では金縁ラベルが付いたものは品質が間違いないと評価・人気が高まっています

定置網の名前、水揚げされる港が記載された「天然能登寒ぶり」の証である白縁ラベル

金縁ラベル作成の翌シーズン、天然能登寒ぶりの基準である7kg以上のものについて、ブランドを証明するため白縁ラベルを作りました。もともと、11月から翌年2月にかけて定置網で漁獲される7kgを超えるものを「天然能登寒ぶり」と呼んでいたのですが、この時期の7kg以上のものがすべからく自信を持って天然能登寒ぶり、と言えるのかというと、年や時期によって丸々としたものから細いものまで色々おり、脂のりはバラバラ。そこで「天然能登寒ぶり」そのものをしっかり良いブランドだと位置付けるために、通称「白縁」を付けたものから「天然能登寒ぶり」としていくこととしました。

もしかすると、飲食店の前に青箱が飾ってあるのを見たことがあるかもしれません。鰤の魚体が綺麗に見える、ということもあり、寒ぶりといえば青箱、地元ではブリ箱というほど、お隣氷見や石川県ではこの色の箱が使われています。
今シーズンから、この青箱のデザインも一新し、白縁や金縁と同じ雰囲気で統一感を持たせました。ブランドの定義から資材のことまで、この数年さまざまな仕掛けをし、これが「天然能登寒ぶり」といえるものを作りました。

-最後に

石川県の人はマグロよりブリが好き、だと思っているのは筆者だけかもしれません、、、、、
気軽にお寿司が食べられる中で、マグロやサーモンが人気な寿司ネタなのは間違いありません。それでも能登地域では特に古くから冬といえば寒ブリだ、という風習が今もなお受け継がれており、飲食店、スーパーで待ち焦がれる魚です。市場関係者、漁師にとって非常に大切な寒ぶり。
安定的にかつ持続的に水揚げできるよう、資源管理を意識して、より良いものを届けたい、そんな漁師の気持ちのこもった「天然能登寒ぶり」をぜひ食べてください。

脂ののった寒鰤は、たっぷりの大根おろしで食べるのが地元の食べ方!
水揚げの終わった漁港。日が昇る時間帯が氷点下となり、最も冷えると言います。

-おまけ

12月1日に開催される、鰤-1グランプリでは、漁師が1番と思うものを出荷し、1番を決めます。12月1日のグランプリに出す、特別な天然能登寒ぶりには、伝統工芸でもある「加賀水引」をつけています。加能ガニの最高級ブランド「輝」にもつけている水引を手がける、”津田水引折型”さんに今年も用意してもらいました。ぜひこの日だけの特別な天然能登寒ぶりをぜひ飲食店やスーパーで探してみてください。

取材:島田 拓土(しまだ ひろと)
石川県農林水産部水産課

1988年生まれ 石川県金沢市出身。2011年長崎大学水産学部卒後石川県庁入庁。経営指導グループで藻場保全、団体指導、担い手担当、2014年に水産庁漁業調整課指定2班に出向し、沖合底びき網の担当、2016年に石川県に戻り漁業調整、資源管理を5年間担当し、2021年より現在の企画流通グループへ。流通、県産魚PR、水産業の成長産業化などを担当。魚は釣るより食べる&作る専門で大学の時のバイト経験を活かして実は調理師免許をもっている。

 

2025.12.01