石川県沿岸には暖流と寒流が交わる豊かな好漁場が広がっており、地形を活かした多彩な漁法が発達しました。特に、全国有数の水揚げ量を誇る底引き網漁や、定置網漁などが有名です。
そんな数ある漁法の中でも、今回は石川県の特徴的な漁法の一つである「海女漁」(あまりょう)について紹介します。
輪島の海女漁は、石川県輪島市に伝わる女性たちの素潜りによる伝統的な漁法で、国の重要無形民俗文化財に指定されています。ボンベなどの呼吸器を使わず身一つと簡易な道具のみで潜水する、非常にシンプルで昔ながらの姿を残した漁と言えます。
昔はシーズンになると輪島市の沖合にある舳倉島(へぐらじま)に移り住み漁をしていましたが、現在は日帰りで通うことが多くなっています。
海女の年齢は20代から70代にわたり、親子代々海女という家も少なくありません。

主な漁場である舳倉島周辺は、浅い場所でも12mほどもあります。ビル3階建ての高さに相当する深い海へ、酸素ボンベも担がずに一気に潜っていく。その身体能力に驚かされます。
海面にいて獲物が見つからない深い場所では、潜水の途中で浮遊したまま1度~3度円を描いて探します。
獲物を見つけると一気に急降下し、専用の道具で獲る姿はタカやツバメの様だそうです。
ひと息で何十メートルも潜るベテラン海女は「ジョウ海女」や「オオ海女」と呼ばれます。
舳倉島の一番深いアワビ漁場「シンバエ」は24~25mはあるそうです。ビル5階分の深さです。
深部へもぐる際はイキヅナ(命綱)をつけ、合図とともに船上の引き上げ役(主に夫)がモーターで引き揚げます。イキヅナは浮上する際の時間と労力をカバーし、文字通り命を守る役目もあります。
この素潜り方法は「日本書紀」や「古事記」にも描かれているのだとか。もちろん昔はモーターではなく人力で引き揚げていました。引き上げ役も大変そうです。

輪島の海女漁の特徴
・国内最大級の現役人数:国内では三重県鳥羽・志摩地域などに次ぐ規模で、1つの地域(主に輪島市海士町)に集まる人数としては国内最大級を誇ります。
・主な漁場と獲物:輪島港から北方約48kmにある「舳倉島」や「七ツ島」の周辺海域が主たる漁場です。アワビ、サザエ、岩ガキ、もずくなどを採捕します。
・主な3つの漁法:輪島の海女漁は、出漁の形態によって以下の3つに分類されます。
カチカラ:海女が直接、陸(海岸)から泳いでいって漁を行う方法。
イソブネ:夫婦や親子などが少人数の船で出港し、男性が船上から命綱を引き上げるなど役割を
分担する漁法(夫婦あま)。
ノリアイ:1隻の漁船に船頭と複数の海女たちが乗り合わせ、目的の漁場へ向かう方法。
・漁期:7月1日~9月30日
海女採れのブランド化
石川県漁協では、海女漁で獲れた海産物をブランド化しています。

輪島の海女採りサザエ
角(つの)が長く、とても見栄えが良い。
流れの速い海で育つため、海藻やフジツボなどの付着物がなく、殻の表面は綺麗。また、海女が手で一つ一つ丁寧に採っているため身にキズがありません。
コリコリとした食感と磯の香りが抜群。
定番のつぼ焼きはもちろん、刺身やサザエ飯でもその風味を堪能できます。

輪島の海女採りアワビ
栄養豊富な海のワカメ・コンブなどの海藻類を食べ育った天然もののアワビ。
噛むほどに広がる甘みと、天然ものならではの圧倒的な歯ごたえを楽しめます。
刺身だけでなく蒸しアワビもオススメ。
刺身には濃厚な肝醤油を絡めて食べるのが至高の逸品です。

輪島海女採り岩ガキ 珠姫
海女漁で丁寧に採った岩ガキの中でも、形のよさと特大サイズに厳選したものを、前田利常の正室珠姫にちなんで名付けられました。
大きくて食べ応え抜群のプリプリの身。
ひと口含めば、濃厚な海の旨味が口いっぱいに広がります。
生食で食べる満足感が圧倒的です。
その他、モズクやワカメなど、海藻類も海女漁で漁獲されています。
どれも海女さんたちが一つ一つ素潜りして採ってきた自慢の品です。
金沢港にある「いきいき魚市」でも各販売店で購入できます。
(入荷状況により店頭に無い場合もあります)
今年も例年通り、7月1日から海女漁は解禁です。
海女採れの夏の味覚をぜひご賞味ください。
様々な漁法の中でも、「女性」が大活躍する海女漁。
変わりゆく海と向き合いながら、輪島の海女たちは今日も海に潜り、息一つで伝統の灯を守り続けています。

取材:冨水 佳葉(JFいしかわ)
石川県輪島市出身。海と漁師は身近な存在です。地元に貢献できる仕事がしたくて石川県漁協に就職、現在は県産魚のブランドPRや広報、公式SNS運用を担当しています。アジやブリなど青魚と呼ばれるような魚やバイ貝、海藻が好物です。石川県の美味しい魚は県の宝。その魅力を発信できるように頑張ります!
参考文献 『能登 舳倉の海びと』 編集:北國新聞社編集局 昭和61年発行


