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漁師イチ押し!加能ガニの「一番推し」とは?

2025.10.23
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11月6日にズワイガニ漁が解禁が解禁されますが、解禁に先駆け今シーズン新たな取り組みが始動します。その内容についてどこよりも深掘りして紹介したいと思います。

-きっかけ

石川県産ズワイガニは「加能ガニ」として平成18年に石川県漁協が1県1漁協として合併したことを契機に「加賀」と「能登」の頭1文字をとって命名されました。これは合併を象徴するだけでなく、加賀、金沢、西海、輪島、珠洲、小木、能都と石川県のまさに加賀から能登までのエリアの底びき網で漁獲されるという意味も込められています。

しかし、石川県にズワイガニのイメージはあっても「加能ガニ」の名は県外はおろか県内でもその知名度は低く、他産地に比べてもその差は歴然でした。そこで、知名度向上を図るべく広告塔として打ち上げたのが、最高級ブランド「輝(かがやき)」です。もしかしたらこの名前はニュースなどで聞いたことがある方もいるかもしれません。輝はその基準の厳しさからシーズンに10匹前後(過去最高でも16匹)しか認定されませんが、その希少性が話題となってニュースに取り上げられるなど、ブランドの立ち上げ以降、広告塔としての役割を担ってくれています。輝の出現率は1シーズンに水揚げされる加能ガニの中で0.005%程度と、その希少性は数字でも明らかです。

この「輝」がまさに名前のとおり輝いて「加能ガニ」の名が脚光を浴びるのは、解禁日の初セリで実施される「蟹-1GP」の時に『出るか出ないか?値段はいくら付くのか?』という点が大きくあり、これも大切な役目とはいえ、初日だけのお祭りで良いのか??という声が漁師だけでなく、仲買人や飲食店等などでも聞かれていました。

-セカンドブランドではない、どこにもない新たな取り組みを

その検討は2025年5月の連休明けから、まずは漁師目線からではなく、加能ガニを実際に買う仲買人の意見を聞くところから始まりました。輝は漁師目線を第一に検討してきましたが、ここはあえて消費者に近い立場の目線から聞くことで、加能ガニそのものの知名度向上を図るために我々に不足していることは何か?を探る狙いもありました。

仲買人さんたちにも様々な意見がある中、共通して聞こえてきたのが、輝の「希少性とそれ故の扱いにくさ」でした。輝は確かに広告塔としての知名度・効果は抜群でありながらも、いつ出るのか全く分からないため、仲買によってはそもそもがお客からの注文を取りづらく、手を出せない人もいるとのことでした。一方で九谷焼と加賀水引のタグについては非常に高評価で、伝統工芸と掛け合わせたこの独自性が、値段で話題になるだけではなく、石川県を表すシンボルとして輝、また加能ガニを世の中に広めていくきっかけの一つにもなっているという意見もありました。

これらの意見を踏まえれば、輝から基準を少し下げたセカンドブランドを作るというのがセオリーかも知れません。しかしながら、「輝があまりにも出ないためセカンドブランドを作って、もうちょっと出るようにします」ではあまりにもありきたり。石川県はどこよりもブランド化の取り組みが遅かったこともあり、これまでなかった取り組みをしようということになりました。検討の中でふと話が出たのが「一番ガニ」でした。元々、その日その船で獲れた一番良いカニ(必ずしもただ大きいだけでなく、身入りなども考慮して)はセリの一番頭に持っていくのですが、漁師はそのカニのことを一番ガニと呼んでいました。それにタグもつけて目立つ形にしてはどうか?しかも船で認定、船名もつければ、船毎にうちの「イチ推し」を強調することになり、漁師も盛り上がるのでは?ということで話が進み、その後県内の各地域を回って意見を聞き、一番ガニをオリジナルな形で打ち出していくという方向性が固まりました。

写真は蟹-1GPの様子。これも初セリ時に各船で一番良い蟹を漁師が厳選して出しています

-ブランド名無し、ロゴ無し。そしてタグに隠された意味と違い。

当初、「輝」のような名称を付けることも検討しましたが、セカンドブランドでない全く新しい取り組みのため、ブランド名は無しで呼び名、通称だけにしようということとなり、「一番ガニ」「漁師イチ推し」から連想して「一番推し」で決定。ロゴに関しては、これがあるとどうしてもセカンドブランド感が出てしまうため敢えてロゴは考えず、タグには一番広めたい「加能ガニ」を印字することになりました。

次に悩ましかったのが、タグの形やデザインでした。先のとおり「輝」の知名度向上で大事な「九谷焼タグ」は獲った漁師も「俺にはもらえないの??」と熱望するほどの人気で、九谷焼で作るのは誰もが一致した意見でしたが、どのような形にするのか、悩む部分でした。結果全く異なる九谷焼タグを作ると、ブランド名を作るのと同じで乱立しかねない、結局は一番推しの加能ガニにもしかすると「輝」の基準を満たすものがいる、そもそもが非常に厳しい基準をクリアして初めて輝になるが、輝でなくても味や姿形はほぼ同じなんだ、という部分を踏まえて敢えて同じ形、デザインのタグとしました。ただし、一番推しには輝のタグに添える梅鉢の加賀水引が付きません。

もう一つ、言われないと気付かない大きな違いがあります。それが、タグの側面です。今回も制作を依頼した株式会社青郊の北野専務に相談した際に言われたのが、「タグの側面は一つ一つ人の手で塗らないといけない。この職人が年々減っておりこの作業は非常に大変」とのことでした。実は輝、輝姫ともにすべてのタグが側面が綺麗に塗られており、ここがそこまで手がかかっているとは思ってもいませんでした。側面が手塗りされているかされていないかという僅かな違いですが、そこにかかる手間は全く違います。僅かな違いですが大きな違いというところ、最上級の「輝」と漁師イチ押しの「一番推し」の差は普通の人には目で見てわかるほどの違いがない、という思いもタグに込めて、輝タグとの差別化として一番推しのタグには”側面を塗らない”こととしました。

-価値をつけるのは誰?

全く新しい取り組みですが、大事なのは、加能ガニの位置付けだと思っています。特に冬の日本海側でズワイガニは、漁師だけでない、観光、旅館、飲食店非常に大きな経済を動かす大事な観光資源ともいえます。そのズワイガニをしっかり持続的安定供給をすべく古くから国主導に限らない厳格な資源管理を実施してきています。その付加価値は食卓に並ぶ家庭向けとはいえないかもしれませんが、だからこそ特別な日に、特別な人に届ける価値のあるものとして、冬の日本海のズワイガニの誇りとプライドをそこに携わるすべての人が持っていることを認識してもらえると幸いです。

取材:島田 拓土(しまだ ひろと)
石川県農林水産部水産課

1988年生まれ 石川県金沢市出身。2011年長崎大学水産学部卒後石川県庁入庁。経営指導グループで藻場保全、団体指導、担い手担当、2014年に水産庁漁業調整課指定2班に出向し、沖合底びき網の担当、2016年に石川県に戻り漁業調整、資源管理を5年間担当し、2021年より現在の企画流通グループ流通、県産魚PR、水産業の成長産業化などを担当。魚は釣るより食べる&作る専門で大学の時のバイト経験を活かして実は調理師免許をもっている。

 

2025.10.23